「不思議の国をつくる」から(1)エドワード・リア最高 

最近大変いい本に出会った。「不思議の国をつくる」ジャッキー・ヴォルシュレガー著 安達まみ訳 河出書房新社。アマゾンで見つけて中古で買ったのだが、これはいい買い物でした。
19世紀から20世紀初頭にかけてのファンタジーの代表的な作家、ルイス・キャロル(アリス)、エドワード・リア(ナンセンス詩人)、ケネス・グレアム(たのしい川べ)、バリー(ピーターパン)、ミルン(くまのプーさん)の生涯と作品をたどっているのだが、私はこれらの作品のうちピーター・パンだけはなぜかしっくりこないのだけど他はすべて好きで、作品の歴史背景や著者の生涯を簡単に読んでみたいと思って購入しましたが、いやー、意外なエピソードがたくさんで驚かされた。

とくに、部分的に読んではいたが、なんとなく好ましいというくらいであまりきちんと読んでいなかったリアの詩は実にいい。それと、もともと画家だったリアの風景画が紹介されていて、これがまた、異様に暗く深い森とひたすら上に高く伸びる山のコントラストが不気味ですが、なかなか迫力のある絵で、これはカラーできちんと見てみたいと思った。ま、そういうなんだか暗い情熱のこもったこの人の詩がまた、ナンセンスというより、パワフルである。

そのむかし ホワイトヘイブンの老人

カラスあいてに カドリーユおどる
ひとびとおこって 「ナンセンス!
トリとおどるなんて ナンセンス!」
さても老人 ぶちころされた

そのむかし ブーダの住人

日ごとに つのる ものぐるい
ひとびと ついに こころくるい
町のへいわを とりもどす
さても老人 たたきころされた

常識人に排除され殺される「聖なる狂気」の老人たち、この構図はリアが結構こだわったスタイル。そして、同性愛者で、他者と打ち解けることができなかったリアは、少数の友人と、子供たちには大変愛されたものの、生涯孤独だったようだ。

そのむかし ケープ・ホーンの老人

うまれてきたのが うらめしくて
なげいて いすにすわっちゃった 
とうとう ぜつぼうで 死んじゃった
さても老人 かなしみのひと

しかし、これは高橋康也氏の著書「ノンセンス大全」からの引用だが、老人も負けてばかりではない。反撃し勝利することもある。

焼画の棒を持った老人

まっかな絵の具でかおぬりたくる
ひとびと「おまえというやつは!」
じいさんこたえず その棒で
さてもみんなをなぎたおす

高橋氏はこのリアのノンセンス詩に見事というほかない解説をつけているが、まあそれは解説というより「超解読(怪読?)」というべきスケールのもの。それによると、「焼画の棒」「まっかな絵の具」を持っているところから見てこの老人は多分画家で、リア本人のことかもわからず、「顔を赤く塗りたくる」のは、古代ギリシャにて、酒の神バッコス神にささげる葡萄酒の赤い澱を顔に塗りたくって(これが古代ギリシャ悲劇の仮面劇のルーツだそうだ)おどった巫女たちの姿の反映でもあるそうだ。古代信仰の霊感に満ちた老人が19世紀末の通俗的なイギリス社会をなぎ倒す、これは壮快なイメージである。こういう想像力を四方八方に走らせることができる(しかも冗談か本気かわからない)もまた偉大なノンセンス学者だった。

なんにせよ、エドワード・リアをちゃんと読んでみたいと思わせてくれた「不思議の国を作る」の作者・訳者に感謝。

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