李英和さんが亡くなられました

李英和さんが亡くなられた(この3月末)ことが報じられております。ご本人とご遺族の意志は、基本的に報道などはしてほしくないということだったと聞いておりますが、既にネットなどにて出ておりますので、わずかばかりの思い出を書かせていただきます。

なお、李英和さんは関西大学教授で、聞いた所によればとても生徒の面倒見の良い先生でもあったとのことですが、私にとって李さんは、北朝鮮独裁体制の民主化を求めた「RENK(救え!北朝鮮の民衆 緊急行動ネットワーク)の活動家としての李さんです、その事をまずお断りしたいと思います。

私は李さんとはあまりご縁はありませんでしたが、ある時期RENKの活動に参加したこともあり、講演会などでお話を聞いたり、その後の懇親会などで多少会話をするような機会には恵まれました。

これは初めて書くことですが、李さんはほんとに豪放な方で(もちろん、内面にはとても繊細な精神を秘めているのですが)正直、この方は時代を間違えて生まれてきたので、もしかしたら金玉均とかの時代に生まれていたら彼を本当に支えたのではないか、と思ったことすら個人的にはありました。

しかし、李さんが北朝鮮民主化のための活動を始めた時、最初に闘わねばならなかった相手は朝鮮総連だったことは、李さんへの評価を越えて忘れてはならないと思います。90年代初め、まだ朝鮮総連がその暴力性も含めて直接的な脅威であった時代に、李さんが北の独裁体制を告発して民主化を訴える活動を始めた時、その集会を暴力的に阻止しようとしたのはまさに朝鮮総連の実働部隊でした。

これもネット以前の時代なのであまりリアリティをもてないかもしれませんが、総連側は「これは民族内部の問題だ」「民族反逆者李英和糾弾」を叫んで集会を妨害、予定していた会議室も使えず、参加者には暴力すら振るわれた時代でした。余計なことを書きますが、李さんはこの行為を警察に訴え、総連に捜査が入ったこと、これはまさに画期的なことだったんです。

これは私的な会話で今も覚えていますが、李さんは「自分たちへの暴力ならまだ我慢したが、証言をしようとした朴春仙さんたちおばあさんにまで彼らは手を出そうとした、それは許せなかった」という意味のことを語っていました。

総連の中にも、こんなことをすべきじゃないと思っていた人はいたでしょう。しかし、北朝鮮は独裁体制であり、民主化が必要だ、民衆は抑圧と飢餓の中にある、という全く正しい主張を、しかも思想的には新左翼だった在日朝鮮人知識人が訴えた時に、それを朝鮮総連がつぶしに来たという事実は消えません。もちろん、現在に至るまで、総連側からは謝罪も反省も全くありません。

その後の李さんの活動のなかで、最も世界に衝撃を与えたのは、脱北者自身にカメラをわたし、北朝鮮の国内映像を撮影して発表したことでしょう。これもあとからは、マスコミや色々な人たちが行うようになりましたが、北朝鮮の飢餓の生々しい映像を、おそらく今は生きていないだろう孤児たちの姿を通じて世界に明らかにしたのも李さんの功績でした。

こういう飢餓の実態を知った人は、やはり、なんとかこの子供たちを支援したいという気持ちになるのは当然です。李さん自身、そのような気持ちを全否定してたわけではない。

しかし、李さんは東京での講演会で「北朝鮮の子供が気の毒だから食糧を送ろう、という人にぜひ言いたい。北朝鮮の子供はトウモロコシだけじゃ生きていけないんです。自由に本を読み、勉強し、自分の人生を生きて行けるようにならなければ、本当の意味で生きているとは言えないんです」「独裁政権にもし支援するといううのなら、断固、その政権の民主化を強く求めることです。その覚悟がないのなら支援などすべきではない。」という趣旨のことを力強く語っていたのは今もよく覚えています。

また、拉致問題に関して言えば、シンガンスと一時同棲していた朴春仙さん、あの人が証言し、今は絶版になっていますが本までまとめることができたのは、李さんや石高健次さんの助力と励ましがすごく大きかったと思います。拉致問題は横田めぐみさんと共に、シンガンス事件の究明が、この事件の本質を明らかにするものでした。シンガンスは個人ではなくあくまで総連メンバーとともに活動し、同時に帰国者のいる家族を巧みに脅迫・利用していたことを、今の時点できちんと再検証することも必要かと思います。

李さんは私のことなど眼中になかったからでしょう、歴史観や政治観では違う私が時々来ることも気にも留めていませんでした。ああいうおおらかさはある意味アジア的で、その意味でも、明治期にはこういう人が日本にもアジアにもたくさんいたんじゃないかと思わせるような方だったと思います。李さんは無神論者だったかもしれませんが、天国に召されることを祈らせていただきます。

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