万葉集入門には、「清川妙の萬葉集」(ちくま文庫)がおすすめ

新年号が発表され、万葉集が売れているようですけど、もし一冊、万葉集入門的なものを読みたい人がいたら、「清川妙の萬葉集」(ちくま文庫)をおすすめします。本格的な古典研究や文学論としては物足りないと思う人もいるかもしれませんが、とにかくこれくらい読みやすく、歌い手の感情をわかりやすく説明しているものは少ない。

やっぱりこの季節なので、春を歌った歌とその解説を紹介しておきます。

「梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ」

「作者不明の歌である。梅の花を降り覆う雪を、梅の花ごとてのひらの中につつみこんで、あなたに見せようと何度も手に取るのだが、そのたびに、はかなく雪は消えてしまう。」

「梅の白い花を、ふうわりと覆う雪のかすかな光。その風情を、そのまま恋人に見せたくて、作者はそっと梅の花をつまみとる。そして、てのひらの中につつみこむと、つかの間、春の淡雪は夢のように消えてしまう。」

「作者は女性であろう。どうしても女性でなくては、という気さえする。繊細なその指先、ほのかに紅みのさしたてのひら、体温のあたたかさに溶けてゆく雪、そして、梅の花一つが濡れている。」

「彼女にとって、梅の花は単なる外界の風物ではない。自分の魂を託して人に贈るための、大切ないとおしい花である」

「梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ」(大伴家持)

「梅の花が夢にあらわれてこう言った。『私は優雅な花だと思います。どうか、お酒に浮かべてください』」

「この歌は、本当にしゃれた歌だと思う。「みやびたる」から「酒に浮かべこそ」までが、梅の花の言葉なのである。夢にあらわれてきたのは梅の花の精で、おそらく可憐で上品な美人であったのだろう。梅の花の精がプライドに充ちて、私こそ、酒の盃に浮かべるのにふさわしい花よ、というところが、なんともほほえましい。」

「梅の花の精らしいものを登場させるのは、大伴旅人の神仙趣味である。当時のエリートであった旅人は漢詩に造詣が深く、歌の中にもその投影が濃い。盃に梅の花を浮かべて飲む、なんと優雅なことか。」

「シルクロードを渡って唐までやってきたヨーロッパの香りが、さらに遣唐使によって、奈良の都に運ばれた。そして、今、都を遠く離れた大宰府の地で、風流人の旅人はこんなモダンな歌を詠んだのだ。」(清川妙の萬葉集)

万葉集の古代神話的世界観については、折口信夫、そして白川静などの深い研究があります。ただ、それら研究書とは別に、この清川氏の本は手元において時々開くと、万葉の世界が本当に身近に感じられるいい本。特に女性にはうけると思う。

最後にまたマンガ好きの本音を書いてしまいますが、上記の二つの歌とか、絶対に「短編アニメ」にできると思うんだよなあ。誰か、万葉の歌を短編のイメージアニメみたいに作ってもらえないかな。スケールの大きい人麻呂の歌とかは難しいけど、こういう愛すべき小品というべき歌は絶対にアニメで描けると思うのだけど。

もし私に大金があるか、大金を持った友人がいたら、スポンサーになってすぐれたアニメーターに万葉集のアニメイメージ化を依頼するのだけどな。この書き込みをだれか大金持ちが読んでその気になってもらえないだろうか。

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