山上たつひこの傑作漫画「綴り方親子」再読(「能登の白クマうらみのはり手」収録)

かって確か「イボグリ君」という題名の山上たつひこの漫画短編集を読み、その異様な魅力、というかまさに「不条理漫画」そのものの滅茶苦茶さに衝撃を受けたことがあった。最近、江口寿史が編集した山上たつひこ漫画選集のうちの「能登の白クマうらみのはり手」にその時読んだ作品が納められていることを知り、古書だけどアマゾンで注文、入手して再読。

人間、年月を経ると、特にギャグマンガに対する感覚って変わるものなのだろうか。かって異様なほど面白いと思った作品に、今はそれほど心を弾かれず、あまり衝撃も感じない。しかし、かっては面白いと思ったけどそれほどぴんと来なかった作品に、再読して異様なまでの感動を覚えることもある。私のとってこの作品集に収められた「綴り方親子」がまさにそのような作品だった。

これは勿論基本的にはギャグマンガなのだけど、解説で江口も書いているように「わずか8ページの中に世の中の真実が非常なまでに描かれている」作品。ストーリーは紹介しないけれど、これ一作で、この選集は買う価値があるとまで思った。

漫画の主人公は作文を書くのが好きな小学生。彼の作文が全国小学生作文コンクールで優勝、学校でも表彰され、父のいない貧しい家でくらす母と子は、努力をすれば夢がかなうという確信を得る・・・ここまでは、山上はわざと「少年美談」のスタイルで描き、いきなりギャグの世界に入る。しかし、笑えるのだけれど、そこで起きるのは夢破れ破滅していく悲劇にほかならない。

「彼は熱と夢を持ち続けあきらめない人生を送った人だった」というととても美しく聞こえるが、そう呼ばれた人のほとんどはこの漫画の主人公のような、実は全く頓珍漢な夢に向かってもがいていただけなのだ。そして、彼を見守る母親のような恋人や伴侶が仮にいたとしたら、その人もこの漫画に出てくる母親のように、支えるつもりで間違った方向に恋人を導いてしまっている。笑えるけど哀しく哀しいけど笑える。これ、もしかしたら山上たつひこの最高傑作かもしれない。「宇宙船えっさ丸」「かんにんどすえ」「3980年野性の王国」などの傑作には今も笑えるが、「綴り方親子」には、ふと、恐ろしさと哀しさを覚えてしまった。

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