福澤諭吉と 「何にしようね」日本初の料理連載記事

福澤諭吉と 「何にしようね」日本初の料理連載記事

ちょっと今朝は多少文句を言いたい。今年は明治維新150周年。別にお祭り騒ぎをせよとも言わないし明治の元勲を讃えよともいわないのだが、せめて産経新聞くらい、今年は「明治という時代」みたいな企画で連載記事をしてくれてもいいのではないでしょうか。あと半年切ってしまったのだ。というわけで非力ながら、今日も明治のエピソードを紹介します。

福澤諭吉と言えば、明治を代表する知識人の一人であり、また啓蒙家だったことは否定する人は(一部の福澤をろくに読まずに侵略者だとか国家主義だとか決めつけるアホウを除けば)いないと思います。ただ、今日は、福澤が発行した新聞「時事新報」が、日本で初めて、料理についての連載記事を掲載したことを紹介します。(「グルマン福沢諭吉の食卓」小菅桂子 中公文庫より)

連載第一回は明治26年9月24日でした。題は「何にしようね」この前書きが中々おもしろいので紹介します(現代仮名づかいに改めた部分もあります)

「今日は何にしようね、と毎日細君の困るのはいずれの家も同じことなれば、その便利を謀り、これから時事新報の片隅に毎日のおかずを掲げることとなしぬ。ここさえ見ればすぐおかずの考えも附き、同じものでもおいしくこしらえることを得べし。しかもこれはこの道の玄人たる新橋花月楼主人等の注意与って力あるものゆえ(中略)料理法の入念なるを吹聴す。」

この献立を、「グルマン福沢諭吉の食卓」は、一章を当てて詳しく紹介しているのですが、これは単にお遊びの記事というのではなく、かなり福澤の意見が入った力のあるものとなっています。いくつかちょっと紹介します。

「煮物(キャベージ巻き);まず牛肉をたたき、卵とメリケン粉を加えて団子となし、またキャベージは丸ごとゆでて一枚一枚にはがし、これにて右の団子を包むみりん醤油にて煮ること」

これって要するにロールキャベツですよね。福澤は当時、まだまだ一般的ではなかった洋食(特に牛肉、牛乳を彼は奨励していました)をいかに日本の家庭でも食べさせるかを考えていたんじゃないでしょうか。

「薩摩汁;鳥一羽を買い先に身を取り置き、残れる骨を二升ばかりの水に入れ、これに玉ねぎの皮をむき丸のまま投げ込みて、ソップ(スープ)を煮出しそのソップに大根、人参、芋、ネギ、油揚げ、シイタケと鳥の肉少々、いずれも小さく切りて入れこれを薩摩汁と為す」

薩摩汁というのがこういうものかどうかはわかりませんが、骨でチキンスープを取り、臭みを消すために玉ねぎを入れる、というのは当時の感覚では珍しかったでしょうね。

鳥一羽、というのが豪快ですが、これは慶應義塾を運営しており、弟子たちがたくさん出入りしていた福澤家の発想なのか、当時の大家族の中では、こうして作りおけば後が楽だったのか、あるいはもともとのアイデアが料亭の発想で一度に汁ものは一度にたくさん作り宴会客に出す感覚なのか、どれもありそうなことのように思えます。

もちろん素朴で簡単な、料理にもすぐできるつまみにもなるようなものも紹介されています。

「山かけ豆腐:大和芋をおろし卵を入れてよく摺り豆腐の露の上にかけるなり」

「田毎の月;小皿を客の数だけ並べ大根おろしに味醂醤油酢を加え右の小皿に盛り真ん中をあけて卵をそっと落とし客の前に出すなり。田毎の月のごとし」(これは私もウズラの卵でやってみたことある)
「蛤の日暮し煮;蛤むき身をひね生姜を入れ味醂と醤油にて煮揚ぐべし」

この辺は簡単すぎるしわざわざ書かなくても、と思うかもしれませんが、当時、「料理本」のようなものはほとんどなかったことを考えると、こういうレシピも家によっては重宝されたのではないでしょうか。

「牡蠣のミルク煮:牛乳へ葛少々と砂糖と塩を入れ牡蠣を煮るべし。これは西洋の料理にて風味良きものなり」

これなんかは、たぶん福澤自身すきだったのではないですかね。今で言えばクラムチャウダーの元祖のようなものでしょう。

「豆腐羅鍋:豆腐一丁大きいまま鍋に入れ、真ん中の所を杓子にてすくい取り、その穴の所へ芝エビ、三つ葉、銀杏、椎茸などを入れ、ダシにて好きほどに味を試み、コトコト煮ながら食べるなり。寒い時分に妙なり」

これは一人で小鍋で煮ながらお酒を飲んだら冬とかかなりしみじみと美味しいのではないかと思います。この冬やってみようかしら。

他にも「土耳古飯」(これは鳥か牛のスープでご飯を炊いて、それをバターで炒めるというバターライス)、様々な汁物など、結構いろいろな料理が、和洋・中華風と紹介されています。福澤諭吉という人は、本書の題名にもあるようにグルメというよりグルマン、酒も食事も本人自ら認める牛飲馬食だったようで、この記事は彼自身推奨する連載だったのではないでしょうか。テレビもネットもない時代、この連載はなかなか好評で、他紙も同様の連載を始めたということです。

まあ、この食事のレシピだけではなく「グルマン福沢諭吉の食卓」は、料理研究家の立場から見た明治という時代をとても面白く書いていますから、明治150周年の今年ぜひご一読をお勧めします。
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