水島新司讃(2)「銭っ子」今こそ読まれるべき名作、復刻してくれ!

この作品は原作が花登筐、と言っても私を含めぴんとこない人が多いのでしょうが、高度経済成長期、「細うで繁盛記」など、大阪を舞台としたドラマの脚本界で次々とヒット作を生み出した作家です。実は先の投稿で書いた「エースの条件」も花登の原作、大阪を舞台とし、貧しい人たちの人情や、また貧しさが故の差別や心の狭さなどを描くところが、この時期の水島の作風とはぴったりでした。

この作品は野球もスポーツも一切出てきません。主人公は中馬健とその妹亜子で、もともとは大金持ちの家の子供でしたが、両親が事故死。二人は強欲な親戚に引き取られ、まるで奴隷のごとく扱われます。とうとう二人は思い詰めて、海に飛び込んで自殺を図りますが、貧しいけれど優しい船長やその親戚たちに助けられました。

しかし、貧しいが故に、けんかで大けがをしてもろくに治療もしてもらえない船長の姿にショックを受け、健は、お金を何とか設けなければだめだと再び旅立ちます。そして、「乞食ならもとではいらない」と(「乞食」も今はダメらしく「物もらい」(目の病気じゃないんだから)に直されているようですが)、道路に座ってお金をめぐんでもらおうとしますが、そこに「プロの乞食」たるおっさんが現れ、「お恵みを…」と迫る迫力に、健がもらえそうだったお金は其のおっさんのもとに行ってしまいます。

このおっさんこそが「銭神」と後に呼ばれる大富豪で、一方では株で大儲けをしてベンツを乗り回し、また時には乞食をして小銭を稼ぐとともに金儲けの情報を町で集めるというすごいキャラの方(表情やせりふのインパクトもすごい)です。この方の名セリフというのがまた素晴らしく(?)とにかく今本が手元になくともすぐ浮かぶのが次のいくつか

「人間が月へ行った みんな銭のおかげや」

自分がスーツを着て高級レストランで食事をし、乞食のなりをした健にはその残飯を与えて一言。
「お前は得をしたぞ。わしはこんな服を着ていたから、高い金を出して飯を食った。お前はぼろを着ているから、飯でもタタで食べた。残飯とはいえ、わしの食ったものと同じじゃ。肝に銘じておけ。それが乞食のいいところじゃい。」
(乞食の極意として)「死ぬとなったら、頭を地面にこすりつけてでも頼むじゃろ。その必死さが、人に財布のひもを解かせる」

まあこうして、乞食に身を落としてこそわかる人間の姿と、さらに強欲な金儲けの世界を知った健は、様々な手練手管や脅迫の仕方を覚え、かつ最後にはついに銭神をもはめて大金をつかみ、かって世話になった船長のもとに還ります。しかし、船長はすでに亡くなる寸前でした。

そして、健の持ち帰った大金は、逆にこれまでは親切だった貧しい人たちに贅沢の味を覚えさせ、彼らの醜い本質があらわになっていきます。今度は逆に詐欺にかかりほとんどのお金を失った後は、かって健と亜子を助けた人たちは、逆に彼のお金を盗み去ろうとすらするのでした。

その後もいくつかの紆余曲折があったのちは、健は、かって自分と亜子を苛め抜いた叔父が安売りスーパーを経営しているのに対抗して、健も安い値段で仕入れた品物で対抗しようとしますが、最後にはこれも卑怯な手段でつぶされます。能力と鋭い発想、そして行動力はあっても、所詮社会的な力も、資産も、組織に守られてもいない個人商店の限界が来たのでした。

しかし、すべてを失った挫折ののち、人を騙し詐欺まがいをしてもお金を儲けようとしてきた健の心は、妹の亜子が病気に斃れた後、逆に少しずつ純粋さを取り戻していきます。ラストは銭神との再会を経て、個人的には、水島作品の中でも最も感動的なラストシーンを迎えるのでした。

この漫画は今はかなり高価なお金を払わない限り古書でも入手できないでしょう(実は私も以前持っていて手放してしまいえらく後悔しています)。しかし、これはむしろ連載当時の70年代初めよりも今の方がはるかに読まれるべき漫画なんじゃないでしょうか?

「銭っ子」は、少なくとも最終部まではひたすら銭儲け(とその失敗)の話です。優れているのは、お金の力で善意だった人も簡単に崩れてしまうことを残酷なまでに描いていること。そして、スーパーの安売りが個人商店を滅ぼしてゆくこと、安売り競争が結局弱小商店の致命傷となること、家庭を守る主婦たちはいかにきれいごとを言おうと一円でも安い店を選択することなども、まさに現在に通じるテーマ。

しかし同時に、最後の最後には、お金を越えた価値があるこそ、そこに人間が戻っていけることを示唆しているのは、これまた「エースの条件」同様、ニューシネマの映画っぽい終わり方。

健は結局銭をつかむことよりも、貧しくても亜子と二人で堂々と生きていくことを選びます。水島新司にとってもこれは会心作ではないかと思うし、「野球漫画の水島」の根本にはこういう世界があるからこそ、彼の野球ドラマの中でも、しっかり「生活」が描かれるのだということはわかってほしい。いや、そういう難しいことはいい、この「銭っ子」どうか復刻してくれ!

まあそうはいっても現実は

「銭っ子が復刻された みんな銭のおかげや」

ということなので、とにかく景気が良くなり出版業界に力が戻り、かつ、この漫画のことがもっと知れ渡って読みたい人が増えなければならないので、こうして啓蒙活動にいそしんでおります。

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