作者の思想や言動と作品は原則的に切り離すべき 「リトル・トリー」と「二度目の人生」

「二度目の人生を異世界で」という小説のアニメ化が、作者がツイッターでヘイトスピーチをしたという理由で中止になり、小説そのものも出荷停止になったようですね。私は、この小説も読んでおらず、ツイッターも観ていないので、直接この問題には触れません。ただ、別の例を挙げて、一応私の原則的な立場を書いておこうと思います(適切な例かどうかわかりませんが)

「リトル・トリー」(めるくまーる社)という小説があります。著者はフォレスト・カーター。私は翻訳が出版されてすぐ買い、大変感動したことを今でも覚えています。チェロキー・インディアンの祖父に育てられたインディアン少年の物語でした。特に、インディアンの祖母が語るカシの木の物語には感動しましたね。

白人の木こりたちが、チェロキー・インデンディアンたちに愛されていた、ある立派な白カシの林を切り倒そうとしたときに、林を守ろうとしたチェロキーたちは、その為に白人が作ろうとする道路を、夜になると掘り起こして使えないものにしようとします。それが繰り返され、ついに白人たちは銃をもって夜も道路を見張るようになりました。しかしチェロキーは、彼らのすきを見ては、道路の建設を妨害しようとし続けました。しかししかし、とうとうチェロキーたちも疲れきってきたころ、ある奇跡が起きたのでした。

「ある日、木こりたちが道を直していると、突然一本の大きな大きな白カシの木が、馬車の上に倒れてきたの。馬車はめちゃくちゃ。とても立派で元気なカシの木だったから、倒れるはずがないのにね。」

「木こりたちはとうとうあきらめた。春の雨季の時季もはじまってたしね。そうして二度と戻ってこなかったんだよ。」

「満月の夜、チェロキーたちは白カシの林でお祝いの祭りをしたの。黄色いお月さまの光の中で輪になって踊ったのさ。白カシも歌ったよ。歌いながら枝と枝を触れ合わせ、チェロキーの頭や肩に優しく触ったのさ。」

「仲間を助けようとして命を投げ捨てたあの白カシの木に、みんなでお弔いの歌を歌ってあげたわ。私はあんまりわくわくしちゃってね、山の上の空に舞い上がりそうな気がしたほどだったよ。」

「リトル・トリー、いいね、こんなことはしゃべっちゃだめ。世間の人にしゃべっても何にもならない。世間っていうのは白人のものだからね。でも、お前は知っておかなくちゃいけない。だから、わたしはしゃべったんだよ。」

しかし、ずっと後になって、この本の著者フォレスト・カーターは、実は本名はアサ・アール・カーター、50年代から、白人と黒人の人種隔離政策の維持を唱え、人種隔離政策を主張するアラバマ州知事のジョージ・ウォレスのスピーチライターを務めていたこともありましたしかも、彼はKKKの過激な分派組織を設立しています。ただ、このグループは残酷な殺人事件を起こし、内ゲバの中解体していき、カーターも組織を去ったようです。

政治活動に挫折したのち、カーターは名前も変え、家族とも距離を取り、小説を書き始めます。クリント・イーストウッド主演で映画化された「アウトロー」も有名ですが、この「リトル・トリー」も、自然と共に生きるインディアンの精神をわかりやすく描いた自伝的小説として高い評価を受けました。しかし、カーターは自分過去を隠し続け、彼がアサ・カーターではないかという質問にはひたすら沈黙を守り、1978年に亡くなりました。

本書に描かれたチェロキー・インディアンの姿やその精神に対しては、チェロキー自身から不正確であったり想像の産物が混じっているという指摘もあり、全体的に、白人の側からの勝手な理想化や幻想が押し付けらているという批判もあります。私も確かにこのような知識を得てから再読すると、他の、確実にインディアンが書いたものや、彼らの直接の証言を記録したものとはかなり印象が異なっていることも確かのようです。

ただ、あえて誤解を恐れずいいますが、この本自体はやはり、読んでいて面白く、少なくともインディアンに深い共感をもたらす本であることは間違いないように思われます。逆に、白人の小説家によって様々な資料を通じてまとめ上げられたからこそ、より読みやすい、少年の成長物語になったのかもしれません。もちろん、違う感想を持たれる方もいるかもしれませんが、私は本書で描かれる様々な人間像には、今も深い感銘を覚えます。

人種差別主義者だったカーターがなぜこのような小説を書いたのか、沈黙を守った彼の内面に何があったのか、そこに、アメリカ南部の深い精神の闇のようなものがあるのか、そこは私には簡単にはわからないものがありますが、仮に著者がいかなる思想をもっていたにせよ、また、場合においては、恥ずべき言動をしていたにせよ、その作品は、それとは切り離してよまれるべきものであること、それだけは確認しておきたいと思います

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