ある在日のおばあさんの話

ちょっと私的な話ですが、もう数年前に亡くなった在日のおばあさんの思い出をちょっと書いておきます。ただ一般人ですし、最後まで公的な立場での発言はされなかったので、お名前は秘します。

このおばあさんとは北朝鮮をめぐる運動の中、もう20年ほど前に知り合いになりました。兄弟たちが両親と共に北朝鮮に渡り、自分と何人かは残りましたが、おかげで、生涯を、働きながら得たお金を北の家族に送り、また、万景峰号で家族に会いに行くことで費やしました。詳しくは聴きませんでしたが、日本で結婚したのちも、必ずしも幸福なわけではなかったようです。

しかし、私にこのおばあさんが最初にあった時から力説したのは、朝鮮総連をつぶさなくてはいけないという事でした。自分は家族が人質になっているから公的には言えない。だからこそ、日本の人に言ってほしい。

この方は80年代に最初に北に行き、その時の印象は「ああ、この国は、どう見てもあと50年は変わらない」というものでした。すべてが監視下に置かれ、民衆は自分の兄弟を含め、もう立ちあがる力も失っている。不満はあっても言葉や行動には出せない。貧しくて希望もなく、今日、明日の食事のことしか考えられなくなっている。そのことを帰ってから、知っているジャーナリストに伝え、後に一部その体験は雑誌にも乗ったようです。

そして、朝鮮総連をなぜ潰さなくてはいけないかと言えば、(当時はまだ拉致は話題になっていませんでした)あれは在日を守る組織でもなんでもない、在日のお金を吸い上げて北に送るだけの組織で、しかも、家族を人質に取られて北に行かざるを得ない在日の弱みに付け込んで言うことをきかせようとしている。

万景峰号だって、乗船するだけで大変なお金を取られる。総連は、自分が送り出したのに、帰国者や日本人妻の立場に立つのではなく、北の政権の側に立って私たちを監視し搾取している。こんな存在が日本にあるから、私たちと日本人が仲良くできないのだ。大体、こんなことを語ってくれました

私は、もしも万景峰号の入港を止めたら、おばあさんは北に行けなくなるけど、それはかまわないのですか、と聞きましたら、「兄弟に会えないのはつらいけど、それは仕方がない。たぶん日本政府があの船を止めたら、自分は行きもしない、もしくはいったら歓迎される総連の幹部たちは騒ぐだろうし人権侵害とか言うだろうけど、実際に乏しいお金をためて、時には借りてでも船に乗っていく私たち貧しい在日は、たぶん何も言わないだろう」これがおばあさんの答えでした。

ただ、この方は民団にはいかず、たとえば外国人地方参政権とかには反対でした。「私たちは外国人で、この国に『間借り』している立場だから、国の政治にどうこういうべき立場でも参加する立場でもない。」

歴史については、やはり韓国人として、日本に言いたいことはある、という立場でしたが、「終わったことだしいまさら議論してもしょうがない、団結力がなかったから日本に負けたんだ」という考えでもありました。そして、先帝陛下が病床に伏されたときは、記帳に行ってきたといい「この国で一番偉くて、一番日本人から尊敬されている方が病気なんだから、この国に住んでいる自分としては礼儀として回復を祈り記帳するのは当たり前」と語っていました。

このおばあさんが一度だけ、どうしても横田滋さんに伝えてほしいといったのは、被害者5人帰国の直後、横田さんがヘギョンさんに会いに北朝鮮に行くという話が出た時でした。

おばあさんは、たぶん、横田さんは北に行って、何かそこでめぐみさんのことを聞きただしたいとか、自分たち家族会の意志を北の首脳に伝えたいとか思っているのかもしれない、でも、何回も北に行った私の経験からして、絶対にそんなことは通じない。

まず、御馳走攻め、乾杯攻めにされ、何か言おうとすればそれはさえぎられる、そして、ヘギョンさんと抱き合う姿勢とかの写真だけがばらまかれる。下手をすれば、恵さんのお墓とかに連れていかれてしまうかもしれない。絶対、ここは心を強く持って、北にお孫さんに会いに行こうなどと考えてはいけない。この内容は、当時の佐藤会長にお伝えし、佐藤氏は、全くその通りだ、と答えてくださったのを覚えています

このおばあさんと一度お寿司を食べに行ったとき「わさびを別にくれない?」と言って、刺身の上からもかなりつけて食べていたのを、なんか似たような話があった時に思い出しました。もちろん、私たち日本人には話さない思いもいろいろあったでしょう。ただこの人と、北朝鮮や総連に媚びを売る日本人とどっちがまともかと言ったら、私はこのおばあさんのほうがはるかに立派な人だったと思います
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