「スリーパーセル」などという前に、簡単な在日朝鮮左派運動史のおさらいを

旧聞に属しますが、三浦瑠璃氏が「北朝鮮のスリーパーセル」について語っていろいろと議論が起きた時がありました。私は秘密情報など持っていないし触れることもできない人間ですし、三浦瑠璃氏はもちろん私などよりはるかに学識も豊かだし国際政治の専門家ですが、あまり在日朝鮮人の歴史についてはお詳しくないのか、出来ればもう少し丁寧に話された方がよかったかと思います(その発言自体は直接は見ていないのですが)

これは西村幸祐氏のフェースブックで、別の問題へのコメントとして書いたものですが、多少説明をつけておいておきます。ここで書いていることはすべて在日朝鮮人学者朴慶植氏(例の「朝鮮人強制連行の記録」書いた人)の、戦後在日朝鮮人運動についての著書を読んで得た知識です。

敗戦後、日本共産党の中には在日朝鮮人が党員として入党していました。金天海とかはその典型ですね。彼は日本共産党中央委員も務め、また同時に、総連の前身である在日朝鮮人連盟(朝連、敗戦直後結成)の最高顧問でもありました。

この時期の朝連と日本共産党の基本姿勢は、天皇制打倒と共産主義革命のために、在日朝鮮人と日本共産党はともに日本革命を目指すために連帯する、というものでした。当初から中国式の暴力革命の要素が明確に含まれています。

その後、朝連はGHQにより解散させられます。要するに、占領軍下で共産主義革命を堂々と目指したり、朝鮮学校を建てまくってそこで占領軍とも日本の文部省とも関係ない教育を始めたら、占領軍としてもこれはえらいことになったと思ったわけです。この時期に起きたのが阪神教育闘争という事件で、朝鮮学校閉鎖に反対して、大阪、神戸で日本共産党と朝連による暴動に近い騒乱が起き、神戸市では市長室が占拠されるなど、戒厳令一歩手前の状況が起きています。

その後、朝連を母体に、民戦(在日朝鮮民主統一戦線)が結成されます。このグループは事実上、日本共産党内の武装組織(「中核自衛隊」「山村工作隊」など)と共に、当時勃発した朝鮮戦争に対し、日本国内で、米軍への武器輸送車両の運行を止めるための攻撃や、血のメーデ―に代表される、日本国内での暴力革命を目指す運動を繰り広げました。これは私見ですが、中国共産党の毛沢東路線の影響や指示の可能性があります。しかし、当時の日本においても暴力革命が成功する要素などなく、活動家の多くは逮捕されました

しかし、朝鮮戦争が終わると、日本共産党は、党内の暴力革命派を追放、また、在日朝鮮人を党員から除名し、日本国籍者だけの党になると共に、「平和主義」「暴力反対」を掲げます。なお、この過程は日本共産党の公式の党史では「なかったこと」に近い「歴史修正主義」がおこなわれております。

ただ「暴力反対」は掲げたのですが、内部の秘密主義、民主中央制という名のある種の独裁体制と言論弾圧(萩原遼さんは追い出すとかね)などは未だに共産党の組織論に根深く残っております。

そして、民戦は朝鮮総連に代わり、こちらも、国内での日本政治に直接かかわる暴力革命や政権交代を目指す運動からは決別、北朝鮮の「在外公民」として、北朝鮮帰国運動や、また日本国内での秘密裏の工作活動を行う組織に代わりました。今後、朝鮮総連は直接日本の体制打倒などは掲げません。まず、帰国運動で約9万3千人を北朝鮮に送り込み、その家族たちは人質を取られてきたと総連の言いなりになります。

その上で、朴大統領夫人暗殺事件、日本人拉致事件、日本国内でのスパイ工作活動や北朝鮮の宣伝、そして北朝鮮に日本のお金やモノ、科学技術などを送り込む作業などにいそしみます。もちろん、総連には秘密の武装組織や「フクロウ部隊」という暴力組織がいることはよく指摘されますが、これについては私は詳しい知識がありませんので触れません。

三浦瑠璃氏の言う「スリーパーセル」というのは、特殊工作員が秘密裏に長期間、市民に溶け込んだ形で潜み、北朝鮮崩壊時にテロを起こす、というニュアンスで語られていると思いますが、これはやや、誤解を生む表現です。

かっては民戦が朝鮮戦争時に行動を起こしたように、北朝鮮が米軍の後方基地である日本国で、拉致や工作ではなく、公然たる武装行動を起こすとしたら、朝鮮半島において戦争が勃発した時です。北朝鮮の根本的な国家目標は朝鮮半島の北優位の統一支配で、その最も邪魔になる存在は日本の米軍基地であり、それが朝鮮戦争において北の勝利を挫折させたということは彼らの歴史的教訓となっています。

北朝鮮の核・ミサイル開発の大きな目的は、朝鮮統一時に米軍を動かせないようにすること。そして、仮に朝鮮半島に大きな危機が訪れた時には、北朝鮮からの秘密のテロ部隊が何らかの行動を起こす可能性はもちろんあり得ることです。少なくとも、そのような潜在的な脅威があることは可能性として対処しなければならない。それは朝鮮戦争時の日本で起きた様々な騒乱を見れば排除できないでしょう。その意味では、朝鮮総連は「予防的な意味で」解散させる必要はあります

そして、このようなテロや工作活動を本当に防ぐためには、一番簡単で確実なのは、あの独裁体制を倒してしまうことなのです。工作員は主人を失ったら、命を懸けてテロをする必然性もない。

その意味では三浦瑠璃氏は「北朝鮮の崩壊時に工作員やスリーパーセルが活動する」ではなく、「北朝鮮が崩壊すれば何ら工作活動は存在し得なくなる」と言ったほうがより事実に近かったと思います。ちょっとここに戦後の在日朝鮮人の運動史(左派のものだけですが)を記しておきます。

You can leave a response, or trackback from your own site.

Leave a Reply

Subscribe to RSS Feed