「重慶無名戦士へ」 ある兵士の書いた詩

私は大東亜戦争中に書かれた詩をいくつか読んだことがありますが、高名な詩人の書いたものでも、高村光太郎と三好達治のものを除けば、あまり感銘は受けませんでした。その理由はここでは述べませんが、むしろ、戦場に赴いた兵士たちの詩の中に、本当に感動的なものがあるように思います。一つをここで紹介します。

重慶軍無名戦士へ

じっと 僕は 君の眼を見た

君も濡れて立ち
僕も濡れて立ち
君と僕の 距離は 耳の鳴る 真空

モオゼルは鳴り

君の若い血は 燃え噴いて 城壁に 流れた
いま
さらに僕は 君の血を踏み 新しい道に赴かねばならないが

君の血の色を たしかに おぼえてゐよう

何時の日か かならず何時の日かに
君の出血がきれいな伝説になるような
巨きな中国がもりあがってくる
その日まで

中華民國三一年六月七日 僕は君を仆した

作者は岩井五郎という人ですが、私はこの方については全く知りません。1942年6月に書かれたこの詩を、私は戦中の愛国詩、戦争詩の研究者の著作「幻影解 大東亜戦争」(今村冬三 葦書房)で偶然知りました。納められた本は「兵隊の祝祭 : 南支軍詩歌集」で、国会図書館では読むことができます。

この詩についてはどんな解説も不要と思います。

この本は、大東亜戦争中に書かれた様々な詩に対し、詩人の敗北として深く読み込んだもので、異論はありますが大変な力の入った一冊。政治的立場は違っても、このような真摯な評論は左右共に中々少なくなりました。

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