トランプ国連演説について 主権国家の復権

トランプ発言についてちょっと走り書きだけど感想書いておきます。まず最初に確認しておくべきことは、北朝鮮問題に触れたのはこの演説のごく一部であり(だからと言って評価に値しないという意味ではありません、ある意味重要なポイントになっていることは確かです)名指してはるかに長く批判されている国はイランとベネズエラです。北朝鮮は、他国民を拉致し、かつスパイ工作員として使っているという「テロ国家」に近い批判対象であり、イランは中東におけるテロ支援国家としての批判です。ただ、ここではトランプ演説のより本質的と思われる点を指摘しておきます。

演説冒頭、トランプはアメリカ経済の復活や、ハリケーン被害からの復興を中心に話しています。このことを一部の論者は、国連でする必要のない自国向けの演説だと批判していますが、その最後の部分で、トランプが「我々が軍と防衛に約7000億ドルを費やすことが発表されましたと、彼なりの「富国強兵論」を導き、アメリカがあらゆる危機に対し軍事的備えを強化していることを示唆していることがポイントのはずです。その上でトランプは、テクノロジーの進化は、世界が平和的でありさえすれば、国際社会がかってないほど豊かになれる可能性を描いたのちに、それを妨害し、同じテクノロジーを用いて世界を破滅に導きかねない存在として、テロ組織とそれを支援する国家が存在することを挙げています。

このような語り方が一部では単純な善悪二元論や戦争を示唆するかのようにとられるのでしょうが、ある意味「交渉」が不可能な存在、国際社会が一応共通項とすべき価値観を絶対的に認めない思想集団や政権が現実には世界には存在し、それとは一定の軍事的圧力をもって対峙しない限り問題解決の糸口すら見いだせないというのは、今のところ世界の現実です。

その上でトランプ演説が強調するのは、国連が世界の平和や安全のために機能するためには、まず、あくまでこれが主権国家の集合機関であり、その中では各国が時刻の国益を全面的に主張する場であること、その上での対話を通じた利害調整の場であるという現実をまず承認すべきだということでした。同時に、各国の主権が明確に確立、保護されてこそ、その国は内政を安定させ、かつ、国際社会の平和と繁栄も保たれるのであるという姿勢が明確に貫かれています

これはある意味私には、ドイツを、長きにわたる宗教戦争で徹底的な荒廃に落としいれた30年戦争後結ばれた、ウエストファリア条約を思い出させました。この条約は基本的には当時のヨーロッパ諸国の領土分割を決めたものですが、宗教戦争が果てしない対立をもたらし内戦を永続化させた経験から、各国の主権と領土を明確にし、国家主権を越えた理念や信仰による内政干渉を避けるためのものでもありました。戦争(対外戦争であれ国内の様々な対立による内戦であれ)を回避するためには、何よりも、主権国家の確立が必要であるという理念自体は、現在においても全く古いものではありません。

むしろ、国家主権が経済のグローバリズムと普遍的な民主主義制度によって相対化され、いつかは国境や民族を越えた平和な国際社会が登場するという思想こそが、今やある意味古ぼけた理想となりつつあります。中東の一定の民主化を目指した運動(そのものを全面的に否定するわけではありませんが)が、かえって内戦と難民の発生を招き、近代的価値観(政経分離、自由民主主義と人権思想)の一方的な拡張が、各地域の伝統的価値観を破壊して、精神の荒廃から過激な原理主義が逆に生まれている現実を観れば、もう一度「国家」の価値を再構築することでしか対応できない矛盾があることは事実ではないでしょうか。

トランプ演説で語られる「主権国家」の理念が最もよく表れているのは以下の部分です。

「強い主権国家は、異なる価値観、異なる文化、そして異なる夢を共存させるだけでなく、互いの尊敬のもとに並行して働く多様な国々を可能にします。強力な主権国家は、国民に未来の所有権を与え、自らの運命を支配することを可能にします。そして強い、主権国家は、個人が神が意図した人生の豊かさで繁栄することを可能にします。」https://www.newshonyaku.com/%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%91%EF…/

しかし、では国家主権の名のもとに、あらゆることが正当化されるかと言えばそうではありません。トランプ演説でさらに強調されているのは、国家が自らの国益を守るために最大限の努力をすることは認めたうえで、「自国の国民(の生命、人権も)、他国の国家主権も』認めない国に対してだけは、その存在を許してはならない、それを最低の理念とすることを訴えています。その例としてこの縁雑が最初に挙げたのが、具体的には北朝鮮のことです。以下の部分がそれです。

「今日の我々の地球の災いは、国連の根底にあるあらゆる原則に違反する小さなグループの不正な政権です。彼らは自国の市民も国家の主権も尊重しません。

もし、正当な人の多くが邪悪な少数者と対峙しなければ、悪は勝利するでしょう。まともな人や国が歴史に傍観者になれば、破壊力は力と強さを集めるだけです。
北朝鮮の腐敗した体制よりも、他の国々や自国の人びとに軽蔑を表明した者はいない。それは、何百万人もの北朝鮮人の飢餓死、刑務所の懲役、無数の拷問、殺害、抑圧について責任を負っています。」

「米国の大学生、オットー・ワームビア(Otto Warmbier)がアメリカに戻り、数日後に死ぬだけであった時、我々は政権の致命的な虐待を目の当たりにしていました。独裁者の兄が国際空港で禁止された神経薬を使って暗殺されたのを見ました。我々は、日本の浜辺から13歳の日本人の女の子を誘拐し、彼女を北朝鮮のスパイのための語学教師として奴隷にしたことを知っています。」

「これが十分でなけれは、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの無謀な追求は、人間の命を失うことがない世界全体を脅かしています。

いくつかの国がそのような体制と取引するだけでなく、核兵器を持つ世界を危うくする国を支援し、供給し、財政的に支援することは、非道行為です。地球上のどの国も、この犯罪者の一団が核兵器とミサイルで武装しているのを見ることに興味がありません。」

「米国には大きな力と忍耐がありますが、しかし、もしそれが自国や同盟国を守ることを強制されるならば、我々は北朝鮮を完全に破壊するしかないでしょう。ロケットマンは自分自身と彼の体制のために自爆作戦をしていいます。米国は準備が整っていて、(攻撃)することもできますが、これは必要ないでしょう。それが、国連のすべてです。それが国連の目的です。彼らのやり方を見てみましょう。」

「北朝鮮は、非核化が唯一の受け入れ可能な将来であることを認識するべき時です。国連安全保障理事会は、最近、北朝鮮に対する厳しい決議を採択し、満場一致で15-0の投票を2回開催しました。安全保障理事会の他のメンバー全員と一緒に制裁措置を採決するために中国とロシアに感謝したいです。関係者全員に感謝します。

しかし、我々はもっと多くをしなければならない。金政権が敵対的な行動を止めるまで、金政権を孤立させるためには、すべての国が協力しなければなりません。」

この後、演説はイラン、ベネズエラの問題をさらに厳しく批判していきますが、その部分は、私よりもはるかに公正に語れる方が多いでしょうし、ここでは控えさせていただきます。私はオバマ政権のイランとの核合意を、彼の政権の外交努力としては最も評価すべきだと考えていたので、この点についてはトランプ演説に疑問もあります。そして同時に、北朝鮮がかってイランと緊密な関係にあり、かつ、近年再び急接近している傾向も認めざるを得ません。この点は、軽々しくは論じるのを控えさせてください。

ここでの演説は誤解を避けるために長く引用しましたが、トランプは拉致だけを語っているのではなく,あくまで、北朝鮮の様々なテロ行為の一環として語ったうえで、自国民への弾圧から、核ミサイル開発まで、北朝鮮の全体像を指摘したうえで、核問題解決と、全世界が経済制裁を行うこと、それに協力しない国があってはならない(私見ではそれこそテロ支援国家)であることを示唆しています。日本が行うべきことはトランプ発言を徹底的に「活用」することで、この経済制裁、というより「経済封鎖」の国際的な陣容を作るための努力と、その時点で拉致問題を、トランプが言ってくれたからそれでよしとするのではなく、日本がより強く国際的に訴えることであり、その際、日本人拉致だけではなく、少なくとも北朝鮮のテロ行為、特に「日本人」のパスポートを持っていた北朝鮮工作員によってなされた大韓航空機事件のことなども訴える必要があります。

実は、日本が国内の朝鮮総連や朝鮮学校に対しどのような態度をとるかは、この点でも重要な問題となります。さらに重要なのは、北朝鮮をこれまで事実上支持してきた中国に対する姿勢も重要です。この点で日本が明確な立場をとれなければ、日本はこの問題で、拉致被害者がいるにもかかわらず、現段階以上の主導的な立場をとれないかもしれません。北朝鮮以上の本来「テロ国家」である中国が、その影響力と軍事力を背景に、トランプ政権に妥協する形で北朝鮮問題の「解決」のために乗り出せば(中国が金正男の息子をかくまっているのは明らかに次期政権の可能性を考えているはずですから)、実は日本にとってこれほどの将来における危機はないのです。

忘れてはならないのは、韓国も膨大な拉致被害者が存在し、その中には米軍が参加した朝鮮戦争時の拉致被害者も存在するのですが、トランプ演説には全くそれに触れていません。(先述した大韓航空機事件もラングーン事件も同様です)これはトランプ政権の姿勢が、何よりも「同盟国、友好国優先」であることの証明であるとともに、韓国の外交的敗北です。これもまた、日本は他山の石としなければならないでしょう。まず走り書きですが、トランプ演説に対して率直に思ったことを、誤解や判断ミスも覚悟のうえで書いておきます。
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