「ビル・グレアム ロックを創った男」(大栄出版)

「ビル・グレアム ロックを創った男」(大栄出版)というほんとに面白い本があります。これ、ロックに興味がある人は絶対読んだほうがいい。「フィルモア」という伝説的なライブスポットを作り、数々のバンドを紹介してきたこのプロモーターの、偉大なロッカー、ジャズメン、ソウルシンガーとの面白すぎるエピソードが満載。60・70年代のロックの黄金時代がまさにグレアムと共にあったこと、その後もライブエイドからアムネスティツアーなど、様々なイベントの裏方(といってもいつも目立っているんだけど)として、飛行機事故で亡くなるまで大活躍したことがわかる。

グレアムは、数々のライブのうち一番印象に残っているのは誰ですが、と言われると、必ず偉大なソウルシンガー「オーティス・レディング」と答えていたとのこと。楽屋でオーティスが、氷とセブン・アップがほしいといったとき、会場の製氷機がたまたま壊れていた。グレアムは会場の外に出て、遠くの店まで走って氷を買ってきて(今みたいにコンビニがある時代じゃないし)、オーティスに渡すとき、いかにも苦しそうな息遣いをした。オーティスがどうしたんだ、ときくと、「製氷機が壊れたんだよ、だからひとっ走りして氷を買ってきた、別に大したことじゃない」とグレアムは答える。

当時は60年代半ば。黒人の歌手が、白人のプロモーターにまだまだ搾取されていた時代。オーティスはこれに感動して「これだけは言わせてくれ。俺がこれからこの町でやる時は、いつだってあんたのためにやる。」

グレアムはこの出来事をこう結んでいます。「このビジネスの極意が知りたければ、あの晩こそが極め付けだろう。私がなんでアーティストの信頼を勝ち得たと思う?氷入りのセブンアップ、それだけだ。」
まあ、ここ尾グレアムのすべてがある、と言っていいと思います。もちろん、オーティスのために氷を取りに行く、黒人であれ誰であれアーティストを尊重する姿勢も誠実さも本音。でも、それを隠れてやるんじゃなく、確実に相手に伝えるためにちょっとした演技を付け加える。うまいなあと心底思いますよ。

オーティスにつてのグレアムの名言。「オーティスはいわゆるダンスは踊らない。彼の肉体の、内なる部分が動いていた。彼の声もそこから出ていたし、すべてを歌の中に注ぎ込んでいた。体中がリズムと化し、情熱のとりこになっていた。偉大なアーティストになる鍵は、ライブのたびに、あいつは本気でのめりこんでいると観客に感じさせる力だ。オーティスはそれができた。」いうまでもありませんが、オーティスのステージは、確実に(「愛しあってるかい」というセリフもふくめ)確実に忌野清志郎に影響を与えた。

グレアムは、ロックが大好きで集まる若者に、そのほかの素晴らしい音楽をいろいろ聴かせようとした。ロックのドラムソロがどうにも単調に思えたグレアムは、テン・イヤーズ・アフター(ウッドストックで「アイム・ゴーイング・ホーム」やったあのバンドね)の夜に、ジャズドラマーのバディ・リッチを彼のビッグバンドと共に共演させた。ロックなんかと一緒になりたくないというリッチを説き伏せ、できれば最初の曲は会場の若い人にも知っている曲をやってほしいと、リッチのレパートリーから「ノルウエーの森」をお願いした。テン・イヤーズ・アフターを待ち望む客の前で、いきなりこの曲のメロディーと共にリッチの素晴らしいドラムソロが鳴り響くと、客席は一気に引き込まれたとグレアムは言います「会場中が催眠術にかかったようだ」そして、テン・イヤーズ・アフターはほとんどドラムソロをやらなかったのこと。他にも、グレイトフル・デッドの夜にマイルス・デイヴィス、フランク・ザッパ&マザースとレニー・ブルース(これはレニーが不調で失敗だったらしいがすごいアイデアだと思う)伝説的なオールマン・ブラザース・バンドのオールナイトコンサートなど、もう眼がくらむような話題ばかり。

そして、人気絶頂だったジミ・ヘンドリックスのプレイが、観客受けを狙うマンネリのパフォーマンスになりかかった時、グレアムがきちんとそれを指摘し、でもお客は乗りまくってたじゃないかと答えるジミに「君がステージで小便をしたって、彼らは同じように喝采しただろう」とはっきり言いきったすごさ。そしてジミがそのあと繰り広げたライブの素晴らしさを語るシーン、ライブ直前にパニックになったザ・バンドのロビー・ロバートソンを、その場で電話帳で探し出した催眠術師が立ち直らせるシーンなど、もう全ページが引用したくなるほど。同時に、レッド・ツエッペリンの「警備員」の、読んでいて胸が悪くなるような暴力沙汰、ストーンズとの幾つものトラブル、ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」を大成功させたのにその後の絶交など、ロック界の裏面も感じさせます。ドイツ系ユダヤ人でナチスから逃れた移民だったグレアムが、レーガン大統領がナチス親衛隊の墓に行くことが許せず抗議集会を行い、そのあとすぐ、彼のオフィスが放火されるという事件も衝撃的。とにかく本当に面白いから読んでほしい

ここはそのバディ・リッチの演奏を紹介しましょう。映画「セッション」のモデルこの人じゃないかなあ。


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