「アパラチア越え目指す就任式 トランプ氏支持者に同行」(朝日新聞)この素晴らしい記事を読んでいて、本多勝一の「田中角栄を圧勝させた側の心理と論理」思い出した

新大統領トランプの就任を祝うため、20日、支持者が全米各地から首都ワシントンに集まった。車で、バスで……。記者は、反エリート意識が強い中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)からアパラチア山脈を越え、首都への道のりを、熱心な男女3人の支持者の車に同乗した。(中略)

 午後3時21分。支持者3人と記者を乗せたピックアップトラックのエンジンがうなりを上げた。首都を目指してハンドルを握るのは、建設重機の現役オペレーター、アレンだ。

 アクセルを踏み込み、アパラチア山脈を越える高速道をひたすら進む。

 大失敗にうんざり♪

 自分自身にうんざり♪
 この街にもうんざりだ♪

 デイナが1990年代のヒット曲、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「メアリー・ジェーンの最後のダンス」を口ずさむ。約4年前、ヘロイン中毒で亡くなった弟(享年33)が大好きだった曲。1歳違いで親友のように一緒だった弟は、中学校の作文で将来に望む大統領に「ドナルド・トランプ」と名前を書いた。テレビ番組で人気だったトランプの大ファンだった。デイナは就任式で弟のイニシャルの入ったネックレスを身につける。

 デイナの歌声に、助手席レッジーナも同調する。レッジーナも2001年、薬物中毒に苦しむ弟(享年31)を自殺で失った。更生施設に入って治療にもがいていた。毎晩のように「こんな人生はイヤだ」と食卓で涙を流すが、お金が手元に入ると数日ほど姿を見せなくなり、帰宅すると一日中寝ていた。

 トランプの支持率(17日のCNN調査)は40%にとどまり、不支持が52%と上回る異例の事態。約60人の民主党下院議員が就任式への欠席を表明している。だが、世界の「常識」でどんなに笑われようが、デイナとレッジーナはかまわない。トランプが掲げた「メキシコ国境沿いの壁」は真剣な提案だった。「薬物の流入を食い止めて欲しい」

 ■働いてもホームレス

 午後4時半、ペンシルベニア州サマセットでマクドナルドに立ち寄り、コーヒーを調達した。居合わせた5人組の客に記者が「ここにトランプ支持者はいますか」と聞くと、一斉に笑って「全員だよ」。トランプの得票率が約8割の地域だ。

 「新大統領への期待? 仕事を増やしてくれ、それだけだ」。石炭運搬トラックの運転手ロバート・ステドマン(48)は即答した。この仕事に就いた13年前は1週間で1千ドル(11万5千円)を稼いだが、今では1カ月で同額がやっと。発電所などに石炭を運んできたが、環境規制に厳しいオバマ政権下でどんどん仕事が減った。
 しばらく取材していると、ロバートはオバマの罵倒を始めた。「私はホームレス。今晩寝るのはモーテルだよ」
 地元の高校を卒業した道路工事作業員ジョージ・ボイヤー(22)が「若者の仕事は低賃金のサービス業ばかり」と嘆くと、周囲がうなずいた。雇用を米国に取り戻す、と訴えるトランプに若者も期待を寄せる。
 「さっきのロバートの言葉を聞いたか。『仕事が欲しい』という期待は、米国の保守主義の模範だ」。コーヒーを手に車に戻ると、アレンが興奮気味に語り始めた。「民主党が支配する大都市で同じ質問をすれば『福祉が欲しい』という答えが返ってくる。政府に依存せず、自立を志向する精神が米国の本来の姿。実業家トランプが取り戻してくれる」(後略)
http://digital.asahi.com/articles/ASK1M7T7WK1MUHBI043.html?ref=nmail

私が朝日新聞の記事をほめるというのも珍しく、まあ私などに言われても朝日の方々からすれば全くうれしくないと思いますが、今回のアメリカ大統領選挙、実は、最もトランプ支持者の声を丁寧に伝えていたのは、朝日新聞のこの記事を書いた金成陽一氏をはじめとするいくつかの記事だったように思います。公正に認めるべきところは認めないといけないからね。トランプ旋風を、様々な国際関係やアメリカの経済分析を通じて、大所高所から分析する記事や発言はあった。しかし、この記事のような、「世界にどんなに笑われても構わない=マスコミや文化人の意見なんかに自分の人生や意志を売り渡してたまるか(意訳)」という立場のトランプ支持の庶民を、大変暖かい視線で、決して上からの批評をすることはなく紹介したものは決して多くはなかった。朝日新聞にこういう記事が載っていることの価値は大きく、大げさに言えば、今後のリベラリズムにとって重要な視点を示したといえます。TPPがどうとか中国、台湾とかでこのような人たちはトランプに投票したのではなく、もっと言えば、トランプそのものに投票したというより、自分たちの信じるアメリカの姿を守ろうとしたといってもいい。

ここで紹介されるのがトムペティ&ハートブレイカーズというのもなかなかいい。たぶん、トム・ペティ本人はトランプに投票はしていないだろう。しかし、アメリカン・ロック&ポップスの「伝統」をこよなく愛し、背負おうとしている彼の姿勢、そして、この最新作のミュージックビデオ、これにはトランプ支持者の涙腺をくすぐる何かがあるはず。ちょっと聴いてみてください。スプリングスティーンにせよトムペティにせよ、なんだが、本人は絶対トランプを支持していそうにないロッカーの歌詞に、どこかトランプ支持者とつながるものがある、ここをとらえないといけないのかなと最近は考えています。例えばマイケルムーアとかも、彼が断固トランプに反対するのだろうけれど、彼の心情も論理も、そのちょっと一面的だけど貫こうとしている正義感も、例えばヒラリーを応援したリベラルマスコミや、トランプを馬鹿にして毛嫌いした伝統的な共和党保守の大物よりも、はるかにトランプ支持者に近いようにみえます。

そして、この記事を読んで真っ先に思い出したのが、本多勝一がロッキード事件直後、田中角栄が新潟で圧勝した時に書いた記事「田中角栄を圧勝させた側の心理と論理」でした。当時も、新潟県民は汚職の象徴を当選させた、地元の利害しか考えないのかという声はずいぶんあった。しかし本多勝一は直接、新潟に根を張って頑張っている農民、地元の政治家をきちんとルポし、彼らの本音に迫ろうとした。たぶんあの時の本多には、この人たちの論理をきちんと組み込まなければならない、彼等こそある意味グラスルーツ、見捨てられた地方の本音だという意識があったと思う。私は本多氏の多くの主張にも報道記事にも正直全く共感しない人間ですし、そのジャーナリストとしての姿勢にも疑問を感じることがありますが、この記事は素晴らしかった。

そして、この記事で紹介されていた農民詩人岡部清氏の詩集が、今ネットで読むことができます。一つだけ「帰郷」という詩を引用します。

他の詩も読みたい方は「農民詩人 岡部清詩集」で検索ください。

国境のトンネルを超えると

汽車はまだら雪の山肌に突き当たって
出稼ぎ帰りのおれたちを放り出す
ホームに立っても 今日の日の言葉がないから
重く吐息してうつむいて歩き出すだけ

おれたちはそこに帰って何があると言うのだ

泣きたくなるような

山脈のみどりはあっても
もうそこには
若者達の胸を躍らせるものはない
融雪でにごった川べりに
くずれかけた家があって
そこへ干ダラのような母たちが居る
雪かきに疲れ果てた 雑巾のような妻たちが居て
その懐で乾いて飛びはねる力エルのような子供たちが居るからなのか

ああ

山肌にへばりつく
わずかな棚田
今年も又一軒
老婆の屍の様な廃屋がとり壊されている

ゴマのしぼりかすのような体をひきずって帰郷する谷間

そこはもう疲れて憩う場ではない
行く手をさえぎって立ちはだかる
まだら雪の守門の山肌は
おれたちの生存をさえ拒絶する
http://www2.next.ne.jp/~sirayuki/ok.p.147.html
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2 Responses to “「アパラチア越え目指す就任式 トランプ氏支持者に同行」(朝日新聞)この素晴らしい記事を読んでいて、本多勝一の「田中角栄を圧勝させた側の心理と論理」思い出した”

  1. 小沼堅司 より:
     トランプ現象あるいはトランプ政治に対する重要かつ貴重な視点を提示していただきました。私はグローバル化によって職業・所得を脅かされ、社会保障と税金を奪われるという怒りと、IT化による産業構造の激変に伴う職と生活の不安、熟練・技術と自己の存在そのものの無意味化への不安とが背景にあると理解しています。ただ、ナチズム理解でも同様ですが、これまでの価値の座標軸が動揺・崩壊し、失業とインフレで生活が脅かされ、生と性の規範が堕落するなかで、「見捨てられた状態(Verlassenheit)」「無意味な存在(Sinnlosigkeit)」と思っている「大衆(Masse)」、しかもこのような自分たちの気持ちを代弁・代表してくれる政治の回路が閉ざされていると感じている「大衆」を〈内側〉から、〈下〉から把握・理解するという視点が大切だと思います。
     かつて吉本隆明が戦前の日本ナショナリズムあるいは「天皇制ファシズム」を克服するには、「大衆の原像」の地点に下り、その内側から把握するのでなければ不可能だと言ったのと同様です。
     アメリカのロック歌手や日本の農民詩人の紹介も為になりました。取り急ぎ御礼まで。(小沼堅司)
  2. miura より:
    ありがとうございます。私は80年代以後、すでに消費資本主義の中無化されたかに見える「大衆」「庶民」が、今復活しつつあると考えていまして、それは時として反動的な形を取ろうとも、基本的には世界をイデオロギーの幻想から食い破るものだと考えています。トランプ個人はともかく、トランプを支持している庶民を、私は少なくとも否定したくないと思いこんな文章を書きました

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