明治時代のカレーはカエルと長ネギが入っていた

私はあんまり食べ物の本って好きじゃないというか、あまり読んでみようという気にならないのですが、食べ物の歴史の本というのは結構興味を持ってます。特に日本人の国民食はカレー、ラーメン、餃子だと思っているので、これらについて書かれた本はいくつか読んでみたことがあります。

これは私がカレー好きだから(というか、カレーが嫌いな日本人ってほとんどいないのでは)のせいかもしれませんが、カレーの歴史について書かれた本って面白いのが多いと思う。これは趣味の問題ですが、講談社から出ている「カレーライスの誕生」小菅桂子著と、森枝卓士の「カレーライスと日本人」(講談社新書、なぜ講談社はカレーについて好著がそろったのか?)の2著が私は双璧と思います。後者の方が学問的には深い気もするけど、日本でのカレーの定着と発展という点ではやや前書の方が勝っているような。個人的には「カレーライスの誕生」をお勧めします。

明治の文明開化の時代に入ってきたカレー料理は、次のように作られていたらしい。

明治5年「西洋料理指南」では、「カレーの製法はネギ一茎、生姜半個、ニンニク少しばかりを細末にし、牛酪大一匙を以て煎り、水一合五勺を加え、鶏、エビ、鯛、カキ、赤ガエルなどのものを入れてよく煮、後にカレー粉小一匙を入れ煮る。これに熟したるとき塩に加え小麦粉大匙二つを水に解きて入るべし」(「カレーライスの誕生」から。少し読みやすく句読点など私が入れました)

インドカレーにないのは、小麦粉を入れてとろみをつけるという発想で、これはイギリスの影響ももちろんありますが、やはり日本のコメにはそのほうがあっていたということもありましょう。そして、ここでカエルの肉が使われている理由を、小菅氏は、中国料理でごく普通にカエル肉を使うことの影響ではないかと推察しています。ペリー開港の1859年、イギリス人は中国人の使用人を伴って来日、たちまちのうちに横浜はビジネス都市に発展しました。英語がすでに喋れた中国人もいて、彼らは日本との取引や仲介者として有能であり、この中国人たちのアイデアでカレーにカエルが使われたのではないかと著者は述べています。なるほど、確かにありうることかと。私は食べたことないですけど、カエルの味は鶏に似ているとのことだし、チキン・カレーのような味になったのかな。

この明治5年は、牛肉など肉食が正式に日本ではじめられた時期でした。もちろんそれまでも牛肉など、武士は食べてはいたのですけれど、一応獣肉は、仏教の広まりとともに675年に宣せられた「牛馬犬猿鳥」の肉食を禁ずる肉食禁断の天武天皇の詔勅が生きていたのでした。明治4年、明治天皇が食卓に自ら牛肉などを登らせ、明治5年に正式に肉食が解禁となります。一部では抗議する御影行者十名が皇居に侵入しようとして、4名が死亡するという事件も起きています。前近代的価値を死守し、自分たちのあがめる皇室が彼らの考える日本伝統を自ら否定することに抗議した一団でした。何となくこの人たちと、私は神風連の乱はダブって見えるような気がします。神風連こと熊本敬神党のリーダーの一人は、廃刀令に対し古事記から日本書紀からあらゆる文献からの引用を駆使してそれが日本伝統の破壊であることを説く文書を提出し、それが黙殺されたことが、彼らの玉砕覚悟の決起の原因の一つとなりました。

カレーから話がずれてしまいましたね、ここでの『レシピ』にはまだ、日本式カレーの三大野菜というべき、ジャガイモ、ニンジン、タマネギのことも書かれていませんが、これらは江戸時代にはほとんど日本では栽培されず、明治以降特に北海道などで作られていく「西洋野菜」でした。この3種がカレーに入れられるようになったのは明治の末ごろでした。まあ、このようにいろいろと面白いことが書いてあります。福神漬けはだれが考案したか、カレーパンの歴史とは何か、有名な中村屋カレーと、インド人独立運動家ビバリー・ボースの関係など。また、私たちが家で作るときはカレールーが一番簡単でそれなりの味になると思いますが、その発売は1950年、ベルカレールウというものが初めてでした。そしておなじみレトルトカレー、「3分間待つのだぞ」のボンカレーの発売は1969年、そのアイデアの始まりは宇宙食のイメージだったことなど。毛利衛氏が宇宙でカレーを食べたという記事はこれを知ると興味深いものがあります。それと「カレー給食の日」なるイベントというか記念日なるものが存在することも私はこの本で初めて知りました。

ま、こんなことを知っても何の役にも立たないのですが、知っていて損なこともありませんし、多分この本を読むとカレーが食べたくなると思いますよ。

中村屋の宣伝ではないのですが、ボースと中村屋インドカレーの関係についてはこちらをご覧あれ

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