「こち亀」に載った銭湯絵師の話

こちら葛飾区亀有公園前派出所 130 (ジャンプコミックス)に、銭湯にペンキ絵をかかせてくれと頼む女子学生の話が載っています。

このエピソードは、個人的にはこち亀の中でも最も好きな作品。銭湯というのはある意味東京下町の象徴だったのだが、だんだんと各家にもマンションにも風呂付が当たり前になり、やはり過去のものとなりつつある(もちろん一定数は残るだろうけど)。その銭湯に描くペンキ絵がテーマの漫画で、こち亀ではおなじみのタイプの勝気で純粋な女性が、銭湯のペンキ絵を書きたいと申し出るが、職人に拒否され、その職人がたまたま事故にあって書き手がいなくなったため、独力でペンキ絵を描き上げようと苦闘する話になっている。

マンガのストーリーはこれ以上ここでは書かないが、一度でも銭湯に行ったことがある人、そこでのペンキ絵を覚えている人にはきっと感動するストーリーで、私自身、読み終えた夜には身近な銭湯に早速行ってしまった。銭湯のペンキ絵を何も必要以上に芸術としてあがめる必要もない。ある意味、類型的なパターンを求められる「看板絵」に過ぎないと言えばそれまで。でも、この銭湯絵をテーマにした漫画を描きたかった作者の気持ちはよくわかる。銭湯に行きたくなる、町の文化を守りたくなる作品です

これは書くべきじゃないかもしれないけど、モデルの美大生が銭湯絵師に弟子入りしたけれど、彼女の経歴も虚偽の可能性があり、作品もパクリということでネット上で問題になり、結局弟子入り自体がなくなるという事件が2019年初めにあった。正直、この作品の愛読者としては辛いものがある。そんな風な企画を立てるべきじゃないんだ。銭湯って、そういう無理な話題性は必要としていない。無理な企画を作らねば衰退していくのなら静かに滅びていけばいい。ただ、もうしばらくの間だけでも、あの、ほんの20分か30分の「旅」を愛する人たちのための世界が、街角にそっとあればいいのだ。

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